化学/材料の効果/記載要件──裁判例で読む

以前、「化学/材料の発明、特許化の落とし穴──「数値限定」「パラメータ発明」とサポート要件」で基本を取り上げました。
今回はその続きとして、化学/材料の「効果」と「記載要件」が、実際の裁判でどのように判断されてきたかを、代表的な裁判例で整理します。

サポート要件──明細書で「範囲全体」を裏づけられるか

サポート要件は、請求項に書いた範囲の全体にわたって発明の課題を解決できると、明細書の記載と技術常識から当業者が認識できるかで判断されます。
パラメータ発明のサポート要件を論じた偏光フィルム事件(知財高裁大合議平成17年11月11日 平成17年(行ケ)第10042号)では、数式で範囲を画したものの実施例や比較例が乏しく、その範囲内で所望の効果が得られると認識できないとして、サポート要件に適合しないと判断されました。
立証の責任は出願人側にあるとされ、出願後に実験データを後出しして不足を補うことは、原則として認められないと整理されています。
したがって、出願の時点で十分なデータを備えておくことが重要だと考えられます。

効果の「顕著性」と進歩性

進歩性の判断で「予測できない顕著な効果」を主張する場合、他の化合物と比較するのではなく、発明の構成そのものから出願時に当業者が効果を予測できたかどうかが問われます。
アレルギー性眼疾患用点眼剤事件(最判令和元年8月27日 平成30年(行ヒ)第69号)は、原審がこの点の検討を尽くしていないとして判決を破棄して差戻し、こうした判断の枠組みを示しました。
明細書に効果を定量的に記載し、なぜ予測が難しいのかを説明できるようにしておくことが、実務上有効だと考えられます。

PBPクレームの明確性

製法によって物を特定するプロダクト・バイ・プロセス(PBP)クレームは、原則として明確性要件を満たさず、「その物を構造や特性で直接特定することが出願時に不可能か、およそ実際的でない」という事情があるときに限って認められます。
プラバスタチンナトリウム事件(最判平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号/第2658号)が、物同一説とこの明確性の枠組みを示しました。
その後、製法で特定された物の構造や特性が明らかでなく、不可能、非実際的な事情の立証もないとして、明確性要件違反とされた裁判例もあります(知財高判令和元年11月11日 平成31年(行ケ)第10015号)。
材料系で製法表現に頼る前に、まずは構造や物性での特定を尽くすことが望ましいと考えられます。

実務でどう備えるか

これらの裁判例に共通するのは、出願の時点でどれだけ備えていたかが結果を分ける、という点です。
効果を裏づける実施例や比較例、数値範囲の合理性、効果の予測困難性を説明できる記載を、あらかじめそろえておくことが鍵になると考えられます。

担当弁理士が化学・材料の分野で長年携わってきた実務経験をもとに、こうした記載要件を見据えた明細書の設計を出願前から一緒に整理いたします。
特許/実用新案のご相談も承っていますので、お気軽にお声がけください。

出典・参考

※ 本記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。判決の事件番号、判旨、射程は、判決原典(裁判所ウェブサイトの裁判例検索)でご確認ください。制度や審査の運用は改訂され得ます。

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