その特許、侵害を証明できますか──分析で見つけられるクレームの書き方

特許は、登録された時点で完成ではありません。
その価値が本当に試されるのは、他社の製品を手に取って、自分の請求項と突き合わせる場面です。
そしてそのとき問われるのは、「登録できたかどうか」ではなく、「侵害を立証できるかどうか」。
この二つは、似ているようで別の設計軸です。
今回は、化学・材料の発明で、この後者の軸をどう設計するかを整理します。

登録を目指す設計と、行使を見据えた設計は違う

クレームを書くとき、「先行技術をかわしながら、どこまで広い範囲で登録できるか」を考えます。
ただ、その軸だけで書かれた権利は、いざというときに行使できないことがあります。

他社の製品を買ってきて、分解し、分析しても、その製品が請求項の要件を満たしているかどうかが分からない──そういう書き方になっていると、権利者は侵害を主張する土俵にすら立てません。
権利は残りますが、使えません。
取ることと使えることは別だという話は、別記事「侵害訴訟の現場で学んだ、「使える権利」と「使えない権利」の差」で少しお話ししています。
ここでは、その手前にある、書き方の話をします。

化学・材料では、権利化と立証が正面から衝突する

この問題が最も厳しく現れるのが、化学・材料の分野です。
理由は単純で、権利化しやすい書き方と、立証しやすい書き方が、しばしば逆を向くからです。

製法で限定した組成物。 
物の構造や物性で書き切れないとき、「~の方法により製造された組成物」と製法で特定することがあります。
この場合、審査は通るかもしれません。
しかし他社の製法は、工場の外からは見えません。
しかもこの形式のクレームは、権利の範囲としては最終的に物として解釈されます(この枠組みは「化学/材料の効果/記載要件──裁判例で読む」で取り上げました)。
構造や特性で「物として同じ」と示せるなら、結局その突き合わせに戻ります。
示すのが難しいなら、相手が同じ製法で製造している事実を立証するほかありません──しかし、その製法は工場の外からは見えません。
製法で逃げたつもりが、立証の場面ではどちらへ進んでも壁に当たる、ということが起こります。

パラメータ発明。 
独自の指標で発明を特定する書き方です。
ここで落ちるのは、測定方法です。
前処理の条件、装置、規格、サンプルの採り方──これらが明細書に書かれていないと、他社製品を測っても、そもそも同じ土俵に乗りません。
値が一致しないのではなく、比較の前提が共有できないのです。
相手方から「その測り方は明細書に書かれていない」と言われて終わります。

微視的構造・内部構造での特定。
断面の形態、界面の状態、分散の様子。
これらは分析すれば分かりますが、破壊を伴ったり、特殊な装置を要したりします。
その手間と費用、そして再現性が、そのまま立証コストになります。
「理屈の上では測れる」と「訴訟で使える証拠にできる」の間には、距離があります。

製造方法・中間体のクレーム。
他社の工場の中で実施されてしまうと、外から検知するすべがありません。
ここは後述する制度が関わる領域です。

ドラフティングでどう手当てするか

では、どう書くか。
完全な答えはありませんが、実務で効く手当てはあります。

まず、最終製品で測れる指標に寄せること
中間段階でしか測れない値より、市場に出た製品を買ってきて測れる値のほうが、権利としては強くなります。
開発の現場で使っている指標が、必ずしも権利化に最適とは限りません。

次に、測定条件を明細書に書き込むこと
パラメータで特定するなら、その測り方まで含めて発明の一部だと考えます。
ここは記載要件の観点からも効いてきますが(化学・材料の発明、特許化の落とし穴──「数値限定」「パラメータ発明」とサポート要件)、立証の観点ではさらに重い意味を持ちます。

そして、サブクレームで検知可能な指標を必ず一本確保しておくこと
上位概念のクレームは広く取り、その下に、分析で追える具体的な特定を置く。
広い権利と使える権利は、択一ではなく、階層で両立させられます。
明細書に何を書くかという全体の話は、「明細書には何を書くのか──発明を「言葉にする」という作業」で整理しています。

それでも見えないときに、制度は助けてくれるか

外から分からない発明のために、特許法には手当てがあります。
ただし、期待しすぎないほうがよい、というのが実務の感覚です。

ひとつが、生産方法の推定です。
物を生産する方法の発明について特許があり、その物が特許出願前に日本国内において公然知られた物でないときは、それと同一の物は、その方法によって生産されたものと推定されます(特許法104条)。
立証の責任が相手方に移るので、製法特許にとっては強力です。

ただし、条件をよく見てください。
効くのは、その物自体が新しい場合だけです。
既知の物を、より効率よく/安く作る製法──化学の現場でよくある、いちばん守りたい類の発明──には、この推定は働きません。

もうひとつが、査証です。
令和元年の改正で創設され、令和2年10月1日から施行されている制度で、中立の技術専門家(査証人)が相手方の工場等に立ち入り、書類や装置の確認、作動、計測、実験などを行って、その結果を査証報告書として裁判所に提出します(特許法105条の2以下)。
工場の中が見えないという問題に、正面から応える仕組みです。

こちらにも条件があります。
申立てができるのは訴えを起こした後だけで、しかも①必要性、②侵害の蓋然性、③補充性、④相当性という四つの要件を満たす必要があります。
とりわけ②──相手方が侵害したと疑うに足りる相当な理由──は、査証を求める側が先に示さなければなりません。

つまり、手がかりがまったくない状態からは、制度も動かせないのです。
制度は、ある程度まで自力で迫れた人に、最後の一押しを与えるものだと考えておくのが健全です。
最初の一手は、やはりクレームの側にあります。

出願前に、「侵害を見つける場面」を一度書いてみる

最後に、実務でお勧めしている手順をひとつ。
出願の前に、こう自問してみてください。

数年後、競合が似た製品を出したとする。
その製品をどう入手し、何で測り、何と比較して、どの請求項のどの要件を満たしていると言うのか──これを、具体的に書き出してみるのです。

ここで手が止まるなら、そのクレームは、登録されても動きません。
設計をやり直す余地がある、というサインです。
逆に、この一枚が書けるなら、その権利は交渉の場でも、訴訟の場でも、力を持ちます。

当事務所は、化学・材料を軸とした権利化と、侵害の場面まで見据えたクレーム設計を、出願の前の段階から一緒に組み立てます。
最初にお話を伺った担当弁理士が、権利化からその後の活用まで一貫して担当します。
特許・実用新案のご相談としてお受けしていますので、開発の途中でもお声がけください。
材料の権利化全般の勘所は、「高分子/機能性材料の発明を「権利」にする──化学系の権利化で押さえる勘所」にまとめています。

出典・参考

※ 本記事は2026年時点の一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。クレームの解釈や立証の可否は、事案ごとの個別判断です。制度の要件・運用は改訂されることがありますので、具体的なご検討にあたっては最新の一次情報をご確認ください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です