意匠法/特許法の見直し議論──仮想空間と生成AIに、知財制度はどう備えるか
メタバース(仮想空間)の広がりと、生成AIによるデザインの大量生成など、現行の知財制度では守りきれない場面が出てきたことを受け、特許庁は意匠法の改正に向けた検討を進めています。
製造業/デザインを持つ企業にとって見過ごせないテーマなので、論点を整理します。
なぜ今、意匠法を変えるのか
現行の意匠法は、基本的に「現実に存在する物品」のデザインを前提にしています。
しかし企業活動は仮想空間へ広がり、生成AIは膨大なデザイン案を瞬時に作れるようになりました。
ここで懸念されているのが、たとえば第三者が生成AIで新製品のデザイン案を大量に作って公開し、その結果、本来の開発者が新しいデザインの意匠権を取りにくくなる(新規性が損なわれる)といった事態です。
また、メタバース上で売買される模倣アイテムには、現行の意匠権の規制が及びにくいという課題も指摘されています。
検討されている方向
審議会で検討されている方向としては、仮想空間上の商品デザイン(物品から離れた「画像」の意匠)を保護対象に加えること、そして生成AIで作成したデザインであっても、人が創作に実質的に関与したものは「意匠」に該当し得る、という整理が挙げられています。
あわせて、創作者の考え方、引用意匠としての適格性、新規性喪失の例外といった論点も議論されています。
これらは制度改正に向けて検討が進められている段階で、内容や時期は審議の過程で変わり得るため、現時点では方向性として捉えるのが無難です。
特許でも──「効力範囲」をめぐる別の議論
少し文脈は異なりますが、特許の分野でも制度の見直しが議論されています。
こちらは仮想空間・生成AIへの対応とは別に、「ネットワーク関連発明と属地主義」を主な論点とするものです。
特許権の効力は、属地主義の原則により日本国内にのみ及びます。
しかし、たとえばサーバーが国外にあるようなサービスでは、発明の構成要件の一部が国外にあることを理由に国内での「実施」と評価されず、特許が容易に回避されてしまうおそれが指摘されています。
近年は、こうした越境型の侵害について属地主義を柔軟に解する裁判例(ネットワーク関連発明をめぐる知財高裁判決)も現れており、特許制度小委員会で効力範囲の見直しが検討されています。
意匠の改正とは別の流れではありますが、デジタル時代に制度をどう合わせていくか、という共通の問題意識から生まれた論点だと考えられます。
製造業が今からできること
制度の確定を待つだけでなく、今からできる備えもあります。
まず、デザインは公開前の早期出願がこれまで以上に重要になると考えられます。
生成AIを使う場合は、人がどの部分に創作的な判断をしたかを示せるよう、プロンプトや修正履歴などの記録を残しておくと安心です。
さらに、製品の外観だけでなく、UI/UXや仮想空間上の表現も権利設計の視野に入れておくとよいでしょう。
短期的には不正競争防止法(形態模倣の規制)、中長期的には意匠権、という重ね方も一つの考え方です。
出典・参考
- 特許庁「産業構造審議会 知的財産分科会 意匠制度小委員会」第16回〜第20回(仮想空間・生成AIを踏まえた意匠制度の議論。特に第20回〔2025年6月30日〕で、仮想物品等の形状等を表した画像を保護対象とする方向を整理): https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/isho_shoi/index.html
- 特許庁「産業構造審議会 知的財産分科会 特許制度小委員会」第50回〔2024年11月6日〕資料1「特許制度等に関する検討課題について」(特許権の効力範囲・属地主義に関する検討。ネットワーク関連発明をめぐる知財高裁判決〔ドワンゴ事件〕などが背景): https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/tokkyo_shoi/index.html
※ 本記事は検討段階の情報に基づく一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。改正の内容・時期は今後の審議で変わり得ます。
公開前および個別のご判断にあたっては、特許庁の審議会資料など最新の一次情報をご確認ください。

