EV・電池リサイクルで特許出願が7倍に──化学/自動車の中小メーカーが今おさえる権利化の勘所
EV(電気自動車)の普及が進むにつれ、産業界の関心は「原材料をどう採るか」から「使い終わった電池をどう循環させるか」へと移りつつあります。
欧州特許庁(EPO)と国際エネルギー機関(IEA)が2026年4月29日に公表した共同報告によれば、電池のリサイクル・再利用に関する国際特許ファミリー(IPF)の数は、過去10年でおよそ7倍(約700%)に増えたとされています。
数字の大きさそのものより、注目したいのは「今がポジション取りの局面」だという点です。
化学や自動車まわりで部材・装置を手がける中小メーカーにとって、ここは自社技術の権利を早めに押さえておく価値が高いテーマだと考えられます。
いま何が起きているのか
EPO・IEAの報告では、出願の地理的な重心が大きく動いていることが示されています。
2023年時点でアジアの出願人がこの分野のIPFの約6割(63%)を占め、2019年ごろまではトヨタ・LG・住友などの日韓企業が上位を占めていたものの、その後は中国のBrunp(邦普)などが台頭してきた、という流れです。中国のシェアは2013年の5%から2023年には29%へと拡大したと報告されています。
欧州は全体の約2割を占め、使用済み電池の回収や、化学的処理によって新しい電池の原材料を取り出す技術に強みがある、と整理されています。
中国の出願人が自国外への出願を増やしているという指摘もあり、国際的な権利取得競争が本格化していることがうかがえます。
なぜ中小メーカーにも関係するのか
この動きは「大企業の話」ではありません。電池リサイクルが重視される背景には、環境対応に加えて、資源(リチウム・コバルト・ニッケル等)の安定調達という供給網の問題があります。
採掘に頼らず使用済み製品から材料を回収する技術は、いわば「国内に鉱山を持つ」ことに近い意味を持ち、各国・各社が戦略的に取り組んでいます。
そして、回収・前処理・分離・再生といった工程には、現場のノウハウや装置の工夫が効きます。
これはまさに、中小の部材・装置メーカーが力を発揮しやすい領域です。
出願が世界的に増えている局面では、後から動くほど「先行特許に囲まれて自社の事業範囲が狭まる」リスクが高まりやすい点に注意が必要だと考えられます。
権利化の勘所(実務の視点から)
特定の案件ではなく一般論として、押さえておきたい観点を整理します。
1. どの工程を権利化するか
破砕・選別などの前処理、湿式/乾式の処理、金属の分離/精製、再生材の品質管理など、工程ごとに技術的な工夫が生まれます。自社が優位に立てる工程はどこかを見極めることが出発点になります。
2. プロセス発明としての書き方
リサイクルは「方法/条件」に発明が宿りやすい分野です。温度/濃度/時間などの条件範囲や、それによって得られる効果(回収率や純度など)を、実験データとともに具体的に記載しておくことが、権利範囲と有効性の両面で重要になると考えられます。
3. 公開前の取扱い
学会発表や展示会、共同開発の打診などで技術を外に出す前に、新規性を失わないよう順序を整えることが大切です。新規性喪失の例外(特許法30条)は救済規定であって、最初から頼る前提にすべきものではない、と考えるのが無難です。
4. 特許か、営業秘密か
再現が難しい製造条件や現場ノウハウは、あえて出願せず営業秘密として秘匿する選択もあり得ます。一方で、製品から分析・推測されやすく回避もされやすい技術は、特許で押さえておく方が向いている場合が多いと考えられます。両者の使い分けは、技術の「見えやすさ」と「回避のされやすさ」で考えると整理しやすくなります。
5. 外国出願の戦略
市場や競合が存在する国(欧州や米国、米国など)での権利取得を早めに検討する価値があります。中国勢が国外出願を増やしているという報告も踏まえると、主要市場での先行確保は重要性を増していると考えられます。
まとめ
電池リサイクルは、環境対応であると同時に、資源安全保障と知財戦略が交差する分野になりつつあります。
出願が世界的に急増している今は、中小メーカーにとっても「自社のどの工程を、どの国で、どう守るか」を考える好機です。まずは自社技術の棚卸しから始めてみてはいかがでしょうか。
出典
- EPO・IEA共同報告(2026年4月29日公表)/IEAニュース: https://www.iea.org/news/battery-recycling-innovation-surging-as-countries-seek-to-strengthen-critical-mineral-supply-and-energy-security
- 関連報道(IO+): https://ioplus.nl/en/posts/battery-recycling-patents-surge-sevenfold-study-shows
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の権利化判断は技術内容・事業状況により異なります。数値・統計は出典原文を、制度の詳細は最新の一次情報をご確認のうえご活用ください。

