AIが出したアイデア・データをどう「守る」か──登録できない部分は営業秘密・ノウハウで
前回は、生成AIで作った発明やロゴが特許・商標で「登録できるか」を整理しました。
今回はその裏側――登録になじまない部分を、営業秘密やノウハウ、契約でどう守るかを取り上げます。
生成AIを使うと、着想のヒント、工夫を重ねたプロンプト、自社用に調整したモデル、生成・蓄積したデータなど、さまざまなものが生まれます。
これらは特許や商標にはなじまない、あるいは「あえて公開したくない」ものも少なくありません。
そうしたものには、「隠して守る」という発想が必要になります。
「登録」だけが、知財の守り方ではない
特許は、技術を公開する代わりに一定期間の独占を与える制度です。裏を返せば、出願すれば中身が公開されます。
プロンプトの工夫や製造ノウハウ、社内に蓄えたデータのように、「公開した瞬間に価値が下がる」ものは、出願よりも秘匿して守るほうが向いている場合があります。
生成AIの活用で生まれるものの多くは、この「秘匿向き」に当てはまると考えられます。
営業秘密として守る──不正競争防止法の3要件
秘匿して守る代表的な手段が、不正競争防止法の「営業秘密」です。法的に保護されるには、(1) 秘密として管理されていること(秘密管理性)、(2) 事業に有用であること(有用性)、(3) 公然と知られていないこと(非公知性)――の3つを満たす必要があります。
実務で特に重要なのが秘密管理性です。アクセス制限、マル秘表示、社内規程、秘密保持契約(NDA)などを通じて、「これは秘密だ」という意思を従業員等に明確に示しておくことが求められます。
要件を満たせば、不正な取得や使用に対して差止めや損害賠償を求められます。
経済産業省の「営業秘密管理指針」(令和7年3月改訂)は、保護を受けるための最低限の対策を示しており、同改訂では生成AIとの関係にも触れられています。
データは「限定提供データ」や契約で
生成・収集したデータは、著作権で守りにくいうえ、取引先に渡すなど「完全には秘密にしきれない」ことも多いものです。
こうしたデータについては、不正競争防止法の「限定提供データ」(特定の相手に限定して提供し、相当量が電磁的に蓄積・管理される情報)として、一定の保護を受けられる場合があります。
経済産業省の「限定提供データに関する指針」が要件や該当例を示しています。
あわせて、データ提供契約や利用規約で「誰が、どの範囲で使ってよいか」を取り決めておくことが、実務上の守りの基本になると考えられます。
見落としやすい、生成AIサービスの落とし穴
注意したいのが、生成AIサービスに入力した情報の扱いです。
入力内容が再学習に使われたり第三者の目に触れたりすると、非公知性や秘密管理性が失われ、せっかくの情報が営業秘密として守れなくなるおそれがあります。
利用するサービスの規約や設定(入力データが再学習に使われるか、保存期間、削除の可否など)を確認し、機密情報をうかつに入力しないこと、そして社内で利用ルールを定めておくことが、リスクを抑える近道だと考えられます。
「公開して守る」か、「隠して守る」か
整理すると、知財の守り方には、特許のように「公開して独占する」道と、営業秘密のように「隠して守る」道があります。
生成AIの活用で多様なものが生まれる今こそ、何を出願し、何を秘匿し、何を契約で縛るか――この使い分けの設計が重要になっていると考えられます。
「生成AIと知的財産権」をテーマにしたオンライン説明会(一般社団法人発明推進協会)が前編6月26日・後編7月3日に開催する予定です。自社の生成AI活用を「守り方」の観点から見直すきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
出典・参考
- 経済産業省「営業秘密管理指針」(令和7年3月改訂): https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/guideline/r7ts.pdf
- 経済産業省「限定提供データに関する指針」ほか知的財産政策室の資料: https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/shiryou.html
- 一般社団法人発明推進協会「生成AIと知的財産権」オンライン説明会(前編6/26・後編7/3): https://www.jiii.or.jp/kenshu/chizaikenshu_kenshukai/chizaikenshu_kenshukai20260626_0703.html
※ 本記事は2026年時点の一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。営業秘密・限定提供データの該当性は個別の事情により判断されます。制度・指針は改訂され得ますので、公開前および個別のご判断にあたっては最新の一次情報をご確認ください。

